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好きな写真集 「森山大道 遠野物語」 森山大道 写真/文 光文社文庫 2007.4.20


 写真集の装丁が素敵です(ブックデザイン 鈴木一誌・藤田美咲)!

最初の12ページがカラーで、そのうち4ページが見開き1枚写真です。大部分のページがブラックベースの紙で(カラー写真のベースも)、フィルムのパーフォレーションが印刷されている作品も。KODAK TRI X PAN /KODAK SAFETY FILM/FUJI の字も読めます。最後の65ページに、「なぜ遠野なのか」森山大道と「日向の気分」鈴木一誌のエッセイが配置されています。文庫版で見た・読んだのですが、十分楽しめます。と言うか、小さい・薄い「写真集」の方が今の時代に合っているのかもしれません(Small is Beautiful)。

1. 「カメラマンはこちら側に属するものと、あちら側に属するものとのちょうど真ん中に介在している」森山大道p207

・・・→→→ 人間は、此岸と彼岸の丁度真ん中に位置している・・大塚巧

 「カメラ」という機械は不思議である・・時間を停止させ、時間を氷らせてくれ、流れ行く「時間」を止めてくれるのですから。此岸と彼岸の境目は、此の「時間」の有無なのかもしれませんのですから。「時間」の流れを超越するホンモノのシャーマンみたいに、「時間」をトリップできたら、どんなに素敵なことでしょう!そんな不思議な「時」に関わっているのが、「カメラマン」なのかもしれません。そして、「不思議」とは、まさに「こちら側に属するものと、あちら側に属するものとのちょうど真ん中に介在している」(森山大道)ことを成り立たせてくれていること、そのこと自体なのですから。

2. 「僕が現場というのは、たんに目の前にある場所ということではないのです」森山大道p202/

・・・→→→ 現場とは、目の前にある場所の根拠のこと・・大塚巧

 「根拠」に触れなければ「写真」ではない・・・と言ったら言いすぎでしょうか。「此岸と彼岸の丁度真ん中に位置している」人間の営みの一つである「撮る」という行為は、「此岸と彼岸」の『根拠』に触れてこそ、「寫」『真』と「成る」のだと思うのです。そんな「尺」「基準」を疎かにしてはいけない気がするのです。その「尺」「基準」は、そのカメラマン、その人自身が「此岸と彼岸」をかけて形成するものでしょうから、写真雑誌の写真コンテストで最優秀をとった写真がよい写真とは限らないと思うのです。それ以前に、そもそも、「写真」は「評価」できるものなのでしょうか、そのこと自体に疑問を感じます。各自の人生を他者が「評価」することが無意味であるように「写真」の「評価」は無意味なのかもしれません。その人にとってよい写真は、その人にとってよい写真なのですから。その人の感情・心に共鳴するという点で他者にとっても「よい写真」であることがあり得るくらいなのでしょうか。

 その意味で、「森山大道 遠野物語」は、私にとって、とても「よい写真」たちでした。

3. 「一切の問いかけがなくなってしまったとき、僕はもう一度「写真よさようなら」と言ってしまうかもしれません。いまの僕の状態は、出口がないのではなく入り口が見つからないのです。そこに僕は唯一望みをつなげていきます。」森山大道p209

 森山大道が撮った写真たちは大好きですが、「森山大道」がどういう人なのかはよく知りません。が、「遠野」を撮った時、森山大道はひょっとして凹んでいたのでしょうか、スランプだったのでしょうか。「いまの僕の状態は、出口がないのではなく入り口が見つからないのです。」(森山大道)の言葉は、そういう意味ではないのでしょうか。「そこに僕は唯一望みをつなげていきます。」(森山大道)という言葉が続く時、メフィスト・フェレスに向かって神が言った「人間は努力する限り迷う」(ゲーテ『ファウスト』)を想起します。「一切の問いかけがなくなってしまったとき」と言うのは、生物的死は別にして、真の人間としての「死」の瞬間なのかもしれません。だから、「努力する限り迷う」『人間』の『努力』と云うのは、『瞬間』に向かって「止まれ、おまえは美しい!」(ゲーテ『ファウスト』)と言う、ファウストと悪魔メフィストフェレスとの危険な「掛け」なのかもしれません。

 森山大道にとっても、「写真」とは「問いかけ」なのでしょう・・か。「問いかけ」・・と言うのですから、誰に対する「問いかけ」? 「神」に対する「問いかけ」? 「真理」に対する「問いかけ」? 

 いずれにしても、「森山大道 遠野物語」は、Instagram に不安を感じる私にとっては、とてもいい刺激になる写真集でした。

Internet時代にAI革命とカタストロフの世界・・と、立ち止まって考えることすら許してくれない程加速し過ぎた「時代」に、いちばん大事なのは何なのか、「問いかけ」て見る「人間のペース」を取り戻してくれたように感じました。


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